「ねぇ、そんな目をしてどうしたの」
人の多い繁華街1本裏の道に足を踏み込むと先程の喧騒とは隔離された別世界が広がっている。
重い鉄扉を開ける。瞬く間に酒と煙草と少しばかりの異香が私の体を包み込む。
「今日も来たんだね」
カウンターに肘をつきながらこちらを見て微笑む彼女がそう言った。
別に毎日通ってる訳じゃないけれどもはや顔見知りを超えた関係の私たちの再会はこの言葉からだ。別に決めてる訳ではない。しかし、お互いにこの言葉がいちばん適切だと思っていたから。
とある夏の日 友人との飲み会でよく行く居酒屋が苦手だったから。騒がしい場所。飲めや飲めと意味のわからないコールを言い合う人。それが当然とも言わんばかりの空気全てが苦手だった。
そんな飲み会で興を削がれた私はおもむろにiPhoneを取り出し''静かな空間''と検索した結果、この場所に出会った。
ここは居心地がよかった。大人数が苦手であった私が楽しまなきゃダメという思いを打ち消して気楽に居れるから。
いや、きっとこれは後付けの理由だろう。この場所が私と彼女の唯一の繋がれる場所だったからが正解なんだと思う。
「ねぇ、そんな目をしてどうしたの」
この言葉が私と彼女の全ての始まり