居場所

君がまた音楽活動を始めた。

簡単なトークその後に曲を入れるそれが彼女の枠の回し方。

人からのリクエストなんて受けない人だった。

そんな彼女が最近持ち曲か少なくなってきたからリクエスト待ってますと募集をかけた。

「そりゃそうだよ 会ってないんだもん」

と頭の中で呟く

高校2年の冬から高校3年の夏と今年の春2人でギターと財布だけを持って横浜のホテルに泊まって睡眠を忘れて歌い続けた 。

会っていたらそんな曲も増えていた。

会っていたら君の横で僕が歌っていた。

会っていたらもう一度君の1番になれた気がした。

そんな期待を胸にしまい込んで彼女の配信から退出する。

次の瞬間カバンの中でスマホが震えるのが伝わってきた。

「会おうよ」

そんな一言を私は少し温めることにした。

「突発的な衝動での考えは一瞬で消えるから」

と君が僕に依存していた頃の初夜のセリフを思い出した。

たまに思い出すくらいでいい

会ったらずっと君の居場所にはなれないから

だからこそ君の苗字も僕の苗字も変わる頃に思い出してくれますようにと願いながら

目を閉じる

 

 

履歴

久々にあなたから連絡が来た

「にいさんなんかつらいよわたし」

「つかれた」

その言葉を頭に入れるよりも先に指が動く

あなたに電話をかける

弱音なんて吐かない人だったから または

それがあなただったからか 私は「大丈夫?」と口に出した

すると彼女は鼻をすすり少し驚きも入った声で「大丈夫だよ」「私は元気」

と呟いた

普段から大丈夫をよく口にする彼女だったが私にはわかる

普段1回目の電話じゃ応答はせず「驚いた?」と口に出して始まる相手からの1回目の着信で始まる定期的な近況報告会

しかし今回に限っては1回のコールもまたず間髪入れずに出てきたから変化に気づいた

何があったの?と聞くと

全世界が敵に回った気がした と呟く

あぁあなたはずるい人だ 私の答えは決まっている

「全世界があなたを敵に回したとしても僕だけはあなたの味方だよ」

そう言って満足そうに鼻で笑いあなたは電話を切った

着信時間30秒の履歴だけが私の携帯画面を埋めつく

特別師

20xx年 9月18日

「私貴方に特別視されてる気がするんだよね

そして将来的にこれが2人をマイナスに持っていく気もする」

 

両耳のイヤホンから大人びた声で流れ込んでくるそんな言葉

きっと私からは見えない君の顔はそな大人びた声に良く似合う寂しげな顔で言っているんだろうな と思わせる

それが分かってしまう私たち2人の関係は行き過ぎたのかもしれない

タイミングのイタズラで恋人になり 周囲の環境で元恋人になった私たち2人は お互いを嫌いになった とかは1ミリもなく 約半年間距離を置いたとしても頭の中に残るのは常にお互いのことで依存しきった沼のような私たち

「そりゃそうだよ 多分俺が特別視してる分同じくらい〇〇〇も特別視してるでしょ」

どんな言葉が適切か分からずこんな言葉を投げその後一瞬後悔が過ぎる

刹那に

「たしかにそうだね」

笑いながらそしてやっと声に色がついて貴女がそう返す

周囲からも友達が少ないと言われ 同性の友達しか居ない貴女

そして

周囲からは友達が多いと言われ 同棲の友達すら自分では少ないと考える 私

正反対とは言えないけれど約90°くらい違う私たちは口をそろえてこういった

お互いがお互いの特別のまま死にたいな

 

人生の最後の瞬間がいつどうであれ誰がパートナーであろうと 思い返すのがお互いであることが分かりきった私たちはまた違う方向に歩き出す

手紙

拝啓 1年間の隔離された生活を送る男友達へ

貴方が旅立つ日の朝4時 俺はこの先やって行けるか分からないから心配だと泣きながら話してきましたね。

初めは「そういうのは彼女にやれ」と冗談交じりに笑いながら貴方にそんな言葉を投げていましたが今ならその気持ちがわかるかもしれません。

私は約1ヶ月の生活すら逃げ出した。

それに比べて今で約半年間スマホすらも使えず最愛の彼女とも話せないそんな状況に置かれる貴方が最後に言った「俺は人生においてお前が最高の1番の友達だし負けたくないライバルだよ」という半呪いのような言葉を思い出しながら私たちが出会った小学校から約12年間の思い出の地を今度は1人で歩きながら思い出しました。

世間一般から見れば真面目とは言えないこんな私を貴方は1番の友達としてまたライバルとして見てくれることを嬉しく思います。

この先の約80年の人生の1年会えないだけと思っていましたが貴方の存在は家族よりも大きいものみたいです。

これは故意ではないし恋ではない。

だからこそ私は貴方を1番の友達だと思っているしかしここからは貴方のライバルだと言えるような人生を送ろうと思います。

それではこの辺で

追伸 戻ってきたら私の就活なんて忘れて1日中サッカーをしましょう。

市内下から3位の元バスケ部部長より

優しさは人それぞれ

最後に既読を付けなかったのはあなたの優しさだったんだろう

それを最後に彼女は姿を消した

LINEという媒体が消えただけ他の連絡手段は多く存在するが私が連絡しなかったのは

これまで3度半年周期でひょろっと私の前に現れ囁かな幸せを含む半年を与えてくれたからだ

次があるという少量の期待を抱えまた半年生きていく

猫のような自由気ままな貴方を待ち続けるんだろう

別に付き合いたいとかそういった感情は持ち合わせてないけれど一年に一度の特番のような彼女の存在は今後としても私を楽しませてくれるような気がしたから

リピートアフターミー

「人って気に入った物があったら無性に繰り返すじゃない?」

「それは曲でも食べ物でも」

いきなり彼女はそう言った。

「それが好きってことじゃないんですかね」

と私なりの回答を受け変わらない眼差しで彼女は続ける。

「でもその繰り返しが永遠に続くとは限らない。きっとその好きよりも目新しい好きが出来たら過去の畜産されたお気に入り1つを消滅させてまた新しいお気に入りに組み込んでいく」

「何が言いたいんですか」

「これを友達に置き換えてみなさい」

私は頭の中で想像する

「1ヶ月30日として1人の友達に1日費やしたとしても少なくとも30人」

「でも毎日人と遊ぶことなんて出来ない」

あまりにも当然のような事を言われてキョトンとする私を横目に彼女は、

「また何が言いたいのかって顔してるね」

彼女はニヤリと笑ってこういった。

「まぁつまりあれだよ

君が友人として数十年先もこの人には時間を作ってでも会いたいと思える人を探しなさい。

それこそが青春の醍醐味だ」

これが彼女の最初で最後の人生の先輩としてのアドバイスだった。